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友達だから、こそ

「誕生日、欲しいモン何?」

 と、此方へやって来るなり聞いてきた我らの王子様。
 付き合いも数年続いて慣れたからか、人見知りらしい彼なりの心を許した相手への接し方だと分かってはいるけども。

「雑すぎない?」
「いつも通りだろ」
「私とプロンプトの誕生日が続くから、毎年プレゼント考えるのが面倒になってきたとみた」
「んな事ねーし」

 そう言いながらも目線を逸らしたので図星なのだろう、彼がよくやる仕草だ。私もだいぶノクトの事が分かってきたなぁと思いつつ、質問に答えないままでいるのも悪いし、欲しい物というのを考えてみる。
 ……まぁ、いきなり何が欲しいかを聞かれても、特に思い付かないんだけど。

「プロンプトへのプレゼントは決めたの?」
「あー、カメラの記録カードかなって。容量やばいっつってたから」
「沢山撮ってきたもんね、喜ぶと思うよ」
「で、スイのも一応考えたんだけど……」
「けど?」
「……リボン以外に思い付かなかった」

 私が三つ編みに結っているリボンは、出会ってから初めての誕生日にくれたノクトからの贈り物だ。まだぎこちない接し方だった高校1年の時に、ぶっきらぼうに「ん、」と包みを渡してきたのをよく覚えている。
 ノクトが私も友達だと思ってくれているのが嬉しくて、髪に合うロイヤルブルーのリボンの色味が綺麗で、あれから数年経った今でもお気に入りで使い続けていた。

「リボンでも良いよ? 使い分けたりも出来るし」
「でもソレ、ずっと使ってるだろ。気に入ってくれてんだなってのは見てて分かるし、違うの渡しても何か、違うっつーか……かといって同じモン渡すのも変だし。けどスイに合いそうなモンですぐ思い付くのはリボンくらいで……とかいうのを考えてたら他に案出てこねーから、聞いた方が早いと思った」
「成程ねぇ」

 これまで私の誕生日にノクトが贈ってくれた品々は、このリボンと、携帯ゲーム機用のポーチと、音質の良いイヤフォン……だったかな。ちなみにプロンプトは、当時観たかった円盤と、オシャレ用の眼鏡と、ブレスレット。どちらも普段使いがしやすくて、学生が友達から貰ったらちょっと嬉しい品だったんじゃないかな? と思う。

「ん~……ノクトがくれる物なら何でも嬉しいけどな」
「イグニスみたいな事言うなよ……」
「言うんだ?」
「言う言う。「何でも良いぞ」とか「お前が選んでくれた物ならどれも大切にする」とか」
「あ~、渡す側が困る回答だ」
「だろ? 高いモンにすると値段について言ってきそうだし、安物にするのも悪いし。毎年気ぃ遣うんだよ」

 溜息を吐きながらかったるそうに話す彼だが、誕生日プレゼントを用意する事そのものが面倒という訳ではない。寧ろ口に出さないだけで、誰かのお祝いは大事に思っているタイプだ。渡す物を考えていたら何にすれば良いのか悩んで分からなくなり困って、最適解についてを考えるのが面倒になる、というだけで。
 ある程度の自由は有るといってもルシス王家の王子様だから、毎年ノクティス王子の誕生祭をインソムニアの住民が賑わう時には、国の偉い方々に挨拶回りに向かったりメディアの取材を受け流したりと大変そうにしていて、私達がお祝いしようと一緒に過ごせる時間もあまり長くは取れない。礼節がどうたらと堅苦しいのは苦手なのも相俟って、今年のノクトの誕生日も漸く会える頃には全身で怠さを現していた。
 ので、自分の誕生日については軽く祝ってくれりゃ良いとでも思っているのだろう、けど。

(きっと……レギス陛下との時間も取れないから、尚更)

 ノクトのお父上でルシス国王であるレギス陛下は、一大国の王としての責務を果たすのは勿論、ニフルハイム帝国との戦が続いている影響で、一人息子との時間もあまり取れない。近年では特に、魔法障壁の維持に力を注がれているからお身体の具合が良くない事も多々有るし……ノクトと会って言葉を交わせたとしても、家族団欒の時間を過ごすというのは難しいようだった。
 それをノクトもレギス陛下も思う所はやはり有るようで、以前ノクトがほんの少しだけ溢していた事も有ったし、レギス陛下との謁見の際には「ノクティスは元気にして……いや、毎度同じ事を聞いてしまっているな」と苦笑いを浮かべていた、一人の優しいお父さんだったな。
 彼等は、一般的な親子のようには会っていられない。だから、大切な家族との時間が、お祝い事の時でさえ長く共に過ごせないからこそ、周りの人達との時間やお祝いを大事にしようと思って、不器用ながらもプレゼントについて頭を悩ませているのだろう。
 私がその中に、ノクトにとって大切な友達の一人に思ってもらえているのは、とても嬉しい。

(なら、そうだなぁ……)

 今の私が考えて提示出来る、欲しい物はというと。

「……うん、思い付いた」
「お、何?」
「私とプロンプトの誕生日に、美味しいお店行くのが良いなって」
「は? ……そんなんで良いのか?」
「二日続けて美味しい物食べに行くんだよ、結構豪華じゃない? 私の時はそうだな~、デザート美味しい所が良いかな。プロンプトにも食べたい物聞いて、良さげな所にしてさ。あぁ大丈夫、ノクトのバイト代でもイケる所にするから」
「んなジリ貧じゃねーよ!」

 怒んないでよ、と笑えば、頭をがしがし掻きながら「お前がそれで良いなら、別に良いけどさ」と言ったので、このリクエストで叶えてくれるようだ。
 プレゼントといっても、なにも使える物を贈るだけが全てではない、一緒に楽しい時間を過ごす事だってかげかえのない大切な贈り物になる筈だ。相手を想う優しい心を持つ彼が、共に居る事を望み楽しんでくれるのであれば私もそうしたいし、素敵な思い出を作っていけたらと思う。
 私にとって嬉しくて、ノクトやプロンプトも楽しくて、皆で良い日を過ごせる……そんなプレゼントが欲しいな。
 それから、もう1つ。

「そうだ、雑対応のノクトに来年欲しい物も言っておこうかな」
「雑じゃねーっての。で、来年は何が良いって?」
「デートしようよ」
「……はぁ?」
「来年は私達二十歳になる訳だし、ノクトも成人男性の仲間入りするんだから、好きな女性をエスコート出来るようになっておかないと。その予行演習も兼ねてさ。ルナフレーナ様との初デートで格好悪い所見せられないでしょ?」
「ばっ、別にルーナはそういうんじゃ、ねーし……つーか何でそういう話になってんだよ、国の情勢だって良い訳じゃ……」
「したくないんだ?」
「ちっげぇ、いや違うってそういう意味じゃなくて……あー、だからっ、何なんだよそのリクエスト!?」
「あははっ!」

 ルナフレーナ様の事でからかうと言葉に詰まり気味になるの、可愛いけど心配だなぁ? って思う。ノクトとルナフレーナ様がお互いを大切に想い合っているというのは、彼女と直接会った事は無くとも、ノクトとの日頃の会話や彼が時々ノートを書いている姿から、よく分かっていた。昔テネブラエで過ごした事を聞かせてくれた時の声や表情からも。
 何年も会っていないけれど、まだ戦は終わっておらず完全な平和というのも訪れてはいないけれど、いつか戦も終わり、何の隔たりも無く二人が再会して、一緒になってほしい。この数年ずっと彼の近くに居て、見てきて……不器用でも大切な人達を想う優しい彼を応援したい、と思ったから。
 私がルシス保護下の存在だから、じゃない。将来ノクティス王子の力になるべく学んでいる魔導士だから、じゃない。ノクトの友達の一人として、友達の幸せを願っているから。人見知りで周りの女子とは全然親しく出来なかった王子様の女友達なら、そのぐらいのサポートはしてあげないとでしょ?

「しっかりバッチリのデートプランを考えられる男になってよね、来年のノクティス様?」
「わーったよ、そうしてほしいっつーなら付き合ってやる。ぜってー文句言わせねープラン考えてやっから」
「釣りは駄目だからね」
「お前オレを何だと思ってんだ……?」

 はい、と小指を差し出せば、呆れ顔で同じように小指を出して絡ませ、ゆーびきーりげーんまーん嘘つーいたーらサボテンダーの針千本のーます、と言って離した。
 数日後に叶えてくれるプレゼントも、交わした来年の約束も、どんな1日になるのか今から楽しみだ。笑って、心から、今日は有難う楽しかった! と、頑張ってくれるであろう大切な友達の君に、そう伝えられたら良いな。