06.知らぬままの世界

少女は気付いていないのだろうか
自分が手放したモノの価値に
手に入ったモノの恐ろしさに

自分が本当に望んでいたモノを忘れ、意思が違う方へと進んでしまっている事に



「ストライク……ブレイズッ!!」

燃え盛る炎を纏ったボールは、大きな音を立ててゴールネットを揺らした。
あたしだけのシュート技、ストライクブレイズも威力が格段にアップしている。
これも体内を満たしている力のおかげなのだろう。

「どーよ侑紀チャン、調子の方は」
「……悪くない。けど、これじゃまだ足りない」
「足りない?」
「今のままじゃ取られる。もっと慣らして威力を上げていかないと……」
「ふーん……」

もう一度、とボールを拾いに行こうとすると、反対側のゴールからネットの揺れる音がした。
どうやら今のシュートは佐久間が決めたモノだったらしく、源田さんが佐久間に声を掛けているのが聞こえてくる。
拾ったボールを手に持ったまま向こうの様子を暫し見ていると、二人共お互いに必殺技を使っていない事に気が付いた。

「……何で、技の練習はしないんだ……?」
「しないんじゃなくて、出来無いのさ」
「出来無い?」
「そ。アイツ等の技は禁断の技だからなァ」
「禁断の、技……?」

佐久間の皇帝ペンギン1号と、まだ見た事は無いが源田さんのビーストファングは、禁断の技と称されている危険な必殺技なのだと不動は説明してくれた。
影山が考案したというその技は、凄まじい威力を持つが全身への負担もかなり掛かってしまい、試合で使えるのはせいぜい二回が限度だとか。
それ以上使えば、文字通り身体が壊れてしまう……二度とサッカーが出来無い身体になってしまう、と。
だからなのか、さっき佐久間があの技を使った後に全身を押さえ苦痛の表情を浮かべていたのは。

「技の習得は完璧だし無理する必要は無い。ああやって普通の練習だけしてんだよ」
「……理由は分かった。けど、それなら他の技の練習をしてても良いんじゃ……」
「おいおい侑紀チャン、それ本気で言ってんのかァ?」

呆れ顔でやれやれといった仕草をした不動に多少イラッとしたが、落ち着いてどういう意味だと問えばククッと笑い彼は返す。

「他の技ってのは帝国に居た時の技だろォ? その技を使い続けた結果どうなったのか……忘れた訳じゃねぇよな?」
「……世宇子に、負けた……」
「通用しなかった技を使っても意味が無い、必要なのはより強いモノだけだ。……お前も、今までの技よりもっと強い技を使った方が良いかもなァ」
「ストライクブレイズを、捨てろって事?」
「どうするかは侑紀チャン次第だけど」

さぁ、どうする? そう不動は再度あたしに問い掛ける。
……考えるまでもないじゃないか、既にあたしは色んなモノを捨ててこっち側へとやって来た。
躊躇うなんてしない、捨てる事でより強い力が得られるのなら喜んで従うまでだ。

「あぁ、何だってやってやる。あたしは此処で、もっと強くなるんだ!!」

答えを聞いた不動はニィと笑みを深くし、回りのメンバーに少し離れるよう指示を出した。

「さっき佐久間がやってた通りにやってみろ」
「……分かった」

たった一度しか見ていないし、皇帝ペンギン2号も試した事は無い。
でも、大丈夫。
今なら何だって出来る、超えていけるんだ。
目を閉じて深呼吸をし、開き、持ったままでいたボールを置いてゴールを見据える。

──そして、ピュイィィと指笛の音が鳴り響いた。



「……彼方さんも、こっち側に踏み込んだんだな」
「あぁ。……不満なのか?」
「そうじゃない。……だが……」
「……お前のその心配性な所、いい加減捨てろよな。アイツの覚悟は本物だって分かってるだろ」
「佐久間は、良いのか。彼女があの技を使う事……」
「別に。俺はあの技で、鬼道を超える。彼方が加わってもそれは変わらないさ」

自分達はもうあの時と同じではないのだ。
誰かの背を追い駆けるんじゃない、自分が得た翼で、超えていくんだ。



飛び立つ鳥がいずれ墜ちる事を、まだ彼等は知らない


「……っつー訳で、明日此処にアイツ等を呼ぶ。各自準備しとけよ」

練習を終えた後、不動は皆に向かってそう告げた。
アイツ等──それが指し示しているのは、雷門イレブンの事だ。
分かったか、そう問うてきた不動に、佐久間と源田さんと顔を見合わせてから頷いてみせる。

「絶対に、勝つ!」

未だ身体に残る痛みを抑えながら、崩れぬように立つ。
其処で手に入らなかったモノが手に入ったと、強さを証明してみせるんだ。



…………駄目だ、って
あたしから、聞こえたのは
きっと 気のせい、だ