08.切望世界

再会を望んでいた、それは確かだ。
でも、こんな……こんな形での再会を、望んでいた訳ではないのに……!

「久し振りだな、鬼道」

佐久間がそう俺に向かって言い、源田が小さく口角を上げる。
信じたくない、信じたくない! けれど、今目の前に在る姿も響いた声も、確かに俺の記憶に有る彼等と完全に一致している。
間違えるハズが無い。
…………無いんだ……



「感動の再会ってヤツだねぇ」
「では、元チームメイト同士仲良く話したまえ。また後で会おう」

わざとらしく不動が拍手をし、影山はこの場から俺達だけを残して去って行った。
影山にもまだ言いたい事は有ったが胸中に押し留め、再度佐久間と源田……それから彼方へと目を向ける。

「ほ、本当に……彼方、なの、か……?」

円堂が彼方に問い掛けるが、返答は無く彼方は何も話さず黙ったままだった。
此方へ向けられている視線に、あたたかさは微塵も感じられない。

「……何故だ……何故だ! 何故お前達がアイツに従う!?」

俺は震えそうになる拳を強く握り三人へと問い掛ける。
その問いに、源田が「強さだよ」と答えた。

「強さ……!? 強さだけを求めた結果が、あの影山のチームじゃなかったのかよ!?」
「俺達は、其処から新たな一歩を踏み出したハズだろ!?」

雷門と戦い、彼等のサッカーを見ていて気付いたんだ。
俺達には本当のサッカーが有るのではないかと、影山の指揮下でただ従うままに走るんじゃなく自分達で走れるのではないかと。
そう思い改め、チーム皆の意思を一つにしたんじゃなかったのか……?

「俺達を見捨てて雷門に行ったお前に何が分かる?」
「なっ……違う! お前達を見捨てた訳じゃない! ……俺は、自分が許せなかった……チームメイトを助けられなかった自分が……だからっ!」
「綺麗事を言うな!」
「!」

お前が欲しかったのも強さだ、そう源田は俺に指を向けて言い放った。
ただ世宇子に勝ちたかっただけで、そんなモノは後付にすぎないと。
……そう、なのかもしれない。
俺が雷門に入ってまで戦いたいと願ったのは仲間の為ではなく、自分の欲求を満たす為…………だとしても!

「その為に、あの影山に付いても良いのか!? 影山が何をやったか覚えているだろう!!?」

地区大会決勝ではスタジアムの鉄骨を落として雷門の皆を大怪我……いや殺害にまで到っていたかもしれない所業を犯したし、世宇子にも神のアクアを与えていた。
過去に数え切れない程の悪行を成してきた奴じゃないか! そんな奴の下に、居てはいけない……!

「源田、俺達と一緒に来い! なぁ、佐久間も、」

一緒に来い、と、二人に駆け寄り佐久間の肩に手を伸ばした。
けれど、その手は──届く事無く、乾いた音を立てて払われてしまった。

「……あの時、俺達が病院のベッドの上でどれほど悔しい思いをしたか……お前には分からないさ。」

冷たい瞳を此方に向けたまま、彼等は入院している間の事を淡々と話す。
動けないベッドの上でどんな思いを抱いていたのか、どんな思いで俺達の戦いを観ていたのか……そして、不動と出会い此処へ来た事を。

「お前には勝利の喜びが有ったろうが、俺達には敗北の屈辱しか無かったんだよ!」
「そんな言い方無いだろ!? っ鬼道は、お前達の為にも世宇子を倒そうって……っ、」

円堂が反論しようとした所を手で制す。
お前の気持ちは嬉しい、だがコレは俺が向き合わなきゃいけない問題なんだ。
再び佐久間と源田の前へと歩み、頭を下げた。

「──すまなかった」
「鬼道、」
「プッ、ハッハッハハ! あの帝国の鬼道が、人に頭下げてるよ!」

不動の下品な笑い声が響く中で、俺はどうか届いてほしいと思いながら二人へ謝罪の気持ちを向ける。
すまなかったと、お前達の気持ちも考えずに自分だけの考えで行動してしまったと。

「何度でも謝る。だから、影山に従うのはやめてくれ……!」

──だが返って来たのは、望んでいた言葉では無かった。

「遅いんだよぉッッ!!!」

佐久間が抱えていたボールを離し、俺に目掛けて思い切り蹴り飛ばしたのだ。
真正面からボールを食らった俺は勢いと共に後方へ飛ばされ、そのまま地面へと叩きつけられた。

「ぐ……ッ!」
「鬼道!」

円堂が駆け寄って起こそうとしてくれた手をのけて一人で立ち上がり、何度でも訴える。
戻って来てくれ、影山から離れてくれ、どうか届いてくれと……!

「敗北の屈辱は勝利の喜びで拭うしかないんだよ」

届かないのか、

「総帥だけが俺達を強くしてくれるんだぁッッ!!」

届かないのか?

「く……ぁ……ッ、俺達のサッカーは……」
「"俺達のサッカー"? 俺達のサッカーは負けたじゃないかぁっ!!」
「!!」

届かないのか……!

眼前にボールが迫り受ける覚悟をした。
……した、けれど……それが俺に当たる前に現れた青色が、俺の前からボールを受け止めたんだ。

「……円堂……」

受身を取り着地した円堂は、受け止めたボールを手に持ったまま彼等へと向き直る。

「……影山に従う奴等に、"俺達のサッカー"なんて言わせない。なぁ、どうしちゃったんだよ! あんなにも仲が良かったのに、こんな形で対立しなくちゃならないのか!? 仲間が傷付いてるのに、何とも思わないのかよ! 彼方!!」

円堂は佐久間と源田に対してだけではなく、このやり取りを傍観していた彼方にも言葉を向ける。
ずっと黙り込んだままでいた彼方は……少しの沈黙の後、漸く口を開いた。

「……俺達のサッカーに、仲間、ね…………ずっと走っていられるから、そうやって軽々しく言えるんだろ」
「……彼方……?」

彼女の発した言葉は、自らが宿す瞳のようにとても冷たくて。
ゆっくりと俺達の目の前までやって来た彼方は、尚も否定の言葉を続ける。

「仲間なんかじゃない。雷門のサッカーなんて要らない。落とされた事も無くレギュラーで在り続けたアンタ等の言葉が、届くと思ってるのか? ……分かりっこない、強くなりたいと願っていてもなれなかった奴の気持ちなんて……だから此処へ来た。此処でなら強くなれる、強さが手に入るんだ!」
「彼方……」
「…………それが、お前の出した答えだっていうんだな」

円堂はじっと彼方の目を見詰め、「……分かった」と一旦目を閉じて呟く。
次に目を開いた時、円堂の目には覚悟を決めた意志が宿っていた。

「俺は今まで、サッカーを楽しめば良いと思ってきた。勝ち負けはその結果だって……だけど、今日は違う。お前達の間違いを気付かせる為には、戦って、絶対に勝ってみせる! 見せてやるよ、本当の俺達のサッカーを!」

円堂はそう強く言い放つ。
その言葉に、思いに、俺は円堂の中に在るモノが自分の中にも今も宿っている事を思い出した。
……そうだ、その心だ。
何度訴えて届かなくても、決して諦めない心だ。

「今度はお前が敗北の屈辱を味わう事になる。俺達には、秘策が有るのさ」
「……!?」
「おぉっとォ! それまで、敵に情報を教えちゃ駄目だぜ。ま、せーぜー頑張るんだなァ」

四人は俺達から背を向け、グラウンドから去って行った。
その姿を見送った後、俺は立ち上がり円堂に声を掛ける。

「円堂……すまない……」
「謝る事無いって。佐久間と源田はお前の仲間、だったら俺達の仲間でもあるさ! だろ?」
「……有難う……」

円堂が居てくれて良かった。
俺一人だけだったら、こんな風にはならなかったかもしれない。
……あぁ、そうだ、届かないのかと諦めてしまうのではなく、最後まで手を伸ばし続けるんだ。

「絶対二人を取り戻そうな。そして彼方も、連れて帰る!」
「あぁ!」

必ずお前達の目を覚まさせてみせる。
佐久間、源田、彼方。



絶望の中にはまだ、光が在る


離れていても、敵として対立する事になってしまっても。
お前達はずっと俺のチームメイトなんだと、伝えるんだ。