01.誘い? いや救援要請だ

突然、珍しい人物から電話が掛かって来た時にさ。

「お願いだよ永塚くん、俺達の食生活を助けてくれ!」

なんて言われてみろ。

「…………は?」

としか返せないっつーの。



FFIも無事に終わり、イナズマジャパンは日本へと帰って来た。
帰って来た時は大袈裟じゃないかってぐらいの歓迎を受け、イナズマジャパンに所属していたメンバーが居る学校は頻繁に報道されてたっけ。
それはウチの雷門中も同じで、エイリア学園との戦いが終わった後以上に大勢の人が学校に押し寄せて来ては練習試合を沢山申し込まれて大変だったなぁ。
色んな人達と試合出来るのは良いけど、その分疲れも半端無くって……あぁでも、俺はイナズマジャパンの正式な選手じゃなかったから……試合に出れるのが、嬉しかった。
目金同様サポートとして同行してたFFIだけど、自分も選手として一緒にプレーしたかったって思いが無かった訳じゃない。
寧ろずっと思っていたよ、目の前でずっと一緒にやって来た仲間がプレーしてるのに、俺は其処に届かなかったんだな……ってさ。
悔しかった。
……うん、「悔しかった」であって、今はそんな風には思ってない。
今は、もっと練習して力を付けて、円堂達と同じ舞台に立てるようになろうって思ってるんだ。
サポートをするだけじゃなく、共に走る選手として……一緒に。
そんな事を思いつつ練習試合の日々を過ごして来たこの数日間、先日の部活で響木監督から「この一週間は休みにする」というお達しが有って一週間の休日が出来た。
疲れただろうからゆっくり休め、その言葉通りこうしてのんびりしているのだけれど……何だろうな、毎日のように予定が有ったからじっとしているのが落ち着かない。
特に観たいテレビも読みたい本も無いし、誰かと遊ぶ約束をしている訳でも無くて。
そういえば、まだ終わってない課題が有ったような……ふとその事を思い出しベッドから起き上がる。
鞄に手を伸ばそうとしたその時、机に放っておいた携帯電話が着信を告げた。

「ん、誰だ?」

同じようにじっとしていられなくなった円堂辺りからサッカーのお誘いだろうか? なんて思って携帯を手に取って開いてみるが、表示されていた名前は予想外の人物のモノで。

「……ヒロトから? 珍しいな……」

アイツから電話なんて本当に珍しい、連絡する事は有ってもメールが殆どだったというのに……どうかしたのだろうか。
そう思って「もしもし」と応答してみれば冒頭の台詞だ。
何なんだいきなり。
普段ボケないヒロトも遂に気候の影響で頭がやられたのか。

「意味が分からん」
「あっ、ゴメン急に……用件に入る前に挨拶してなかったよね、久し振り永塚くん。元気?」
「あーうん、元気っちゃ元気だけどな……で、さっきのは何なんだよ?」
「えっと……俺達が住んでるお日さま園が孤児院だったってのは知ってる?」
「あぁ、前に聞いた」
「子供だけじゃ大変だからって家政婦さんが居てくれたんだけど、具合が悪くなって暫く来れなくなっちゃったんだ。それで……」
「……?」

それで、の後の言葉がヒロトから出て来ない。
ベッドに腰掛けてから先を促すけれど、言い難い事なのか言おうとしては躊躇っていた。
数秒の間が有った後で漸くヒロトが話を進めたが、その言葉を聞いて俺は冒頭と同じ言葉を繰り返す事になる。

「……実は、俺達…………料理が壊滅的に駄目なんだ」
「……へ?」
「だから、料理出来無いんだよ」

待て。
いやいや、嘘だろ?
だってアイツ等ずっとお日さま園で育ったんじゃないか、家政婦さんが居たとしても手伝いやら何やらで少しぐらいは料理出来るハズじゃないのか……? そう言えば、ヒロトは申し訳無さそうに言葉を続けた。

「ほら、俺達父さんの望みを叶える為にってずっとジェネシスになるべく特訓してただろ? 料理も含めて、家事は全部人任せで過ごして来たんだ」
「まぁ、それはしょうがないとも言えるけど……でもエイリア学園が解散してから何ヶ月か有ったじゃないか。その間、何もやらなかったのか? 学校だって……」
「手伝いもしてたし、自分から料理してみようと思ってやってみたよ。やってみたんだけど……」
「……けど?」
「家政婦さんからも先生からも、君達はもう何もしなくて良いって言われちゃって……」
「…………」

これは、相当ヤバイ代物が出来上がったに違いない。
実物を見た事が無いから想像するしかないが、何もしなくて良いって言われるぐらい悲惨な結果になってしまったのだろう……料理も、部屋や道具も。
お前以外の奴はどうなんだと聞いてみれば、同様またはそれ以上の結果が出たとか何とかで……ヒロトはまだマシな方らしい。

「瞳子監督は? あの人何でもこなせそうなイメージ有ったんだけど」
「……姉さんのは、ね……この世のモノとは思えない味がするんだよ……」
「……え?」

あ、画像見る? とヒロトは一旦切る事を告げ、通話を終えた数秒後に送られて来たメールの添付画像を開く。
其処に写っていたモノは……うん、コレもう料理じゃねぇよっていうとんでもない色をしていました……
今度は此方から電話を掛け直し、「何アレ」と問う。

「どの食材をどう調理したらあんな色合いになるんだよ!?」
「姉さん、レシピのままよりも工夫を凝らして作るのが好きなんだ。熱心なのは良い事なんだけど、その結果出来上がるモノがどれも独創的ってレベルを超えていて……」
「……つまり、駄目なんだな」
「うん……」

まさか、ヒロト達エイリア学園の奴等が此処まで料理が出来無いなんて思いもしなかった。
所属していた全員が出来無い訳ではないと思うが、話を聞く限りジェネシスだったメンバーは全滅な勢いなのだろう。
料理が出来無くても死にはしないけれど、今のヒロト達にとっては死活問題のようだ。

「家政婦さんが倒れてからはずっと外食やお惣菜とかで過ごしてたんだけど、ずっとそうだと食費も尽きちゃうし。だから、永塚くん料理出来るからお願いしたくて……」
「永塚ーっ!!!」
「うわっ!?」

突然、ヒロト以外の誰かが俺を呼ぶ声が大声で響いて来た。
何なんだと煩さで一旦携帯を離したが、再度耳に当てて声を聞く。

「頼むよ永塚、もうお前しか居ないんだって~!」
「えーと、もしかしてお前緑川?」
「そうだよ久し振り!」

ヒロトの携帯を奪ったらしい緑川が俺に応える、そういえば今は一緒に居るってのも前に聞いたのを思い出した。
緑川も同じように食生活で苦しんでいるのだろう、若干涙声だ……そして恐らくアイツも作れない。

「……話は大体分かった。ただ、それなら俺じゃなくても良いんじゃね? 他にも料理出来る奴居るんだし……ほら豪炎寺とか鬼道とか」
「明日の百より今日の五十!」
「……えーと、つまり?」
「明日手に入るかもしれない不確実なモノより、僅かでも確実に今日手に入るモノの方が良いって事だよ。それに、あの二人だとウチの状況説明しても断られそうじゃん……!」
「あー……分からなくはない」

薄情な奴等ではないが、尤もらしい理由をつけて回避しそうな気がする……特に鬼道、いや豪炎寺も「お前の方が適任だろう」とか言い出して人に押し付けそうだ。

「頼むよ永塚くん!」
「永塚~!!」
「…………はぁ。良いよ。」
「「やったあ!!」」

此処まで言われては断る訳にもいかないだろう、可哀想だしな……それにさっきの緑川が言った諺の後半、俺が頼まれたら断り難い性格してるからって意味も見越しての頼みのように思える。
それから理由や動機は何であれ、俺を頼ってくれたのは嬉しいしな。

「今から準備すっから、着くの夕方ぐらいになると思う。昼飯はそっちで何とかしてくれよ」
「分かった、簡単な麺類とかで済ましとくよ」
「うんそうしとけ、被害が無いから」

それじゃあまた後で連絡する、そう言って通話を終え携帯を閉じた。
切る直前に「課題見てやるから~」って緑川の声が聞こえたけれど、確か俺よりもアイツの方が成績は下のようだった気がするというのを会ったら突っ込んでやろう。
さっきまでは暇で仕方無かったこの休日、一気に準備するモノの事や考える事が出来て忙しくなりそうだ。

「ま、遊びの誘いじゃなくて世話しに行くんだけどさ」

それでも行くのが楽しみだと思い、笑みを浮かべている自分も居るんだよな。



Help me! ごはん!!


けど、アイツ等の言う壊滅的料理を目の当たりにするのはちょっと怖い。