04.類は友を呼びすぎ
指導開始初日の結果を一言で言うならば。
微妙。
……不味くはならなかったんだ、その辺は調整したから食えずに捨てる事も無く全員の腹の中に収まったから良いんだ。
すぐには包丁の扱いに慣れないといっても、やけに分厚くなったり全部繋がってたりするモノが多く……そんな野菜で作ったサラダがとても愉快な盛り付けになっていた。
まぁでも、皆真剣に上達しようという気持ちが表れていたし、失敗してもめげずに取り組んでいたから良い傾向だと思う。
俺も料理やり始めた頃は似たような事やってたしな……流石に振り下ろしや両手持ちは一度もやらなかったけども。
スタートラインは皆同じなのだから、徐々に慣れて使いこなせるようになるハズだ。
現にヒロトは夕飯の支度の時、粗さは残るが包丁の扱いは合格と言っても良いだろうってぐらい安定してたから、これから細かい事を覚えていけば大丈夫だろう。
そんなヒロトに八神が対抗心を燃やしたのか、睨み付けるような顔をしながら凄まじい速さで切り出して周りが恐怖したという事も有ったが……頼むから間違った使い方だけはしないでくれよな。
包丁は調理道具です。
此処へ来てから二度目の朝は少し違っていた。
というのも、昨日と同じように早く起きて飯の支度をしようと思っていたら、既に起きていたらしい八神と紀伊が支度をしていたからだ。
ベーコンエッグにトーストという定番メニューがテーブルに並べられており、俺がした事といえば寝ていた奴等を起こしに行ったぐらい。
積極的に行動するのは良い事だと歓心しつつ食べたソレ等は、塩コショウをかけすぎたのかしょっぱかったので少々ダメージを食らったが……やっぱ味付けについてもやらなきゃ駄目だなコレは。
朝食を終えて片付けも済ませ、今日はどう過ごそうかとリビングでお茶を飲みながら考えていると、此処の呼び鈴らしき音が聞こえて来た。
「あれ、お客さんだ」
「宅配便?」
「いや、どうだろう……新聞の集金もこの前払ったから違うしな」
出てみる、とヒロトが立ち上がり玄関に向かったのを見送ったが、その数秒後に「えっ!?」という驚きの声が此方まで届いた。
何だろうとその場に居た数名と顔を見合わせ、俺達も廊下に出て様子を見に行く事にする。
そして、其処に居た人物を見て先程のヒロトと同じように驚きの声を上げた。
「お、お前等!」
「バーンに、ガゼル……!?」
「よぉ、久し振りだな」
そう、其処に居たのはバーンとガゼル……じゃなくて、南雲晴矢と涼野風介。
と、カオスとネオジャパンにも居たヒート……厚石茂人と、初めて見るオレンジ髪の女子。
「どうして此処に? まだ韓国代表の所に居たんじゃ……」
「とっくに解散して帰ってるっつーの。今はいつもの所に居るよ」
「私達はコレを届けに来たんだ」
涼野が手に持っていた袋をヒロトに手渡す。
何が入ってるんだと緑川が問えば、「梨だ」と答えが返って来た。
「貰ったは良いが量が多くてね、それならお裾分けに行ったらどうだと言われたので来たという訳さ」
「予選決勝以来会ってなかったし、顔見に行くかなーってな。で、コイツ等はオマケ」
「ちょっと晴矢! そっちが声掛けたからついて来てあげたのにオマケ扱いって何よ!?」
「痛っ!」
ばしんと良い音を立てて南雲の背中を引っ叩いた女子に、まぁまぁと苦笑しながら場を治めようとする厚石と呆れ顔を向ける涼野。
うん、お前等が仲良いのはこのやり取りで分かった。
だが人の家の玄関先で喧嘩を始めるのはどうかと思うぞ……同じ事を思ったのか、取り敢えず入ったら? とヒロトが中に促した。
四人が上がってリビングに入る手前、俺と目が合い声を掛けられる。
「雷門の永塚じゃん。お前も来てたのか」
「まぁな、ちょっとした事情が有って」
「事情?」
リビングのソファに腰掛け、事の経緯を南雲達に話す。
何の為に泊まっているのか、どんな奮闘が有ったか等々……笑いつつ聞いていたが、当事者だったらお前等もきっと苦労するぞ。
「そういえばアフロディが言っていたな、永塚に手料理を振舞ってもらった事が有るが美味しかったと」
「え、何でアイツそんな事まで喋ってんだよ」
「雷門の一員として居た時の話で出て来た。また機会が有れば食いたいって言ってたぜ?」
「あーはいはい、今度会ったらその話もしとく」
「……ねぇ、私アンタの事よく知らないんだけど」
駒沢からお茶を受け取って飲んでいた女子が、控えめに此方を窺いながら問う。
俺もまだそっちの事を知らないし、自己紹介した方が良いよな。
「俺は永塚湊、雷門中サッカー部の二年だ。会うのは初めてだけど、お前もエイリア学園の一員だったんだよな?」
「そうよ。プロミネンスのレアンとして居たんだけど……どっかの馬鹿が雷門と戦う機会を潰したせいで一度も会わずに終わったわ」
「どっかの馬鹿って誰だよ……」
「アンタしか居ないでしょ。……で、私は蓮池杏。晴矢と茂人とは特に付き合いが長いの」
つまり幼馴染って事か、そう言えば厚石はにこりと笑みを浮かべながら頷いた。
自分達が今暮らしている所に行くまでは、お日さま園で過ごす日も多かったのだと彼は言う。
「なぁ、折角こうして会ったんだし俺達と勝負しないか?」
「勝負?」
「円堂守風に言うなら、サッカーやろうぜって事さ」
「面白そうだね。私も、君があれからどのくらい強くなったか興味が有る。それに、君達とも久々に戦ってみたいな」
涼野は俺に言った後、テーブルの椅子に座っていたお日さま園メンバーの方に顔を向けて告げた。
挑戦的な笑みを向けている四人に、一度顔を見合わせた皆も応えるように笑う。
「俺達に勝てるのか?」
「そんなのやってみなきゃ分かんねぇだろ。ま、負ける気はしねぇけどな?」
「その言葉、そっくりそのままお返しするよ」
いがみ合いが無ければ立場も関係無い、皆の本当のサッカー勝負か……あぁ、確かに面白そうだ。
ヒロトと緑川の方を見れば、二人も同じ事を考えていたのか皆よりも嬉しげな表情を浮かべていた。
そうと決まれば早速行こうぜ、と南雲は立ち上がる。
が、ある事に気付いたので「ちょっと待ってくれ」と静止を掛けた。
「何だ?」
「これから行くんなら昼飯用意して持ってかねぇと。勝負に没頭して、終わった頃に腹減ったーって言うだろうしさ」
「あははっ、確かに南雲なら言いそうだよねー」
「なっ、テメェも人の事言えねぇだろーが緑川!」
ぎゃあぎゃあと騒いでいるのも何だか微笑ましく見える。
さて、何を用意するか……外で手軽に食えるモノの定番っていえばおにぎりとかサンドイッチか、なら皆が作るのに慣れる為にもサンドイッチにしよう。
必要な材料や道具を伝えて用意してもらっている最中、厚石が「あの、」と俺に声を掛ける。
「俺達も手伝うよ。何かやれる事が有ったら何でも言ってくれ」
「お、さんきゅ。……あのさ、聞いても良いか?」
「ん?」
「お前等の家庭科の成績ってどのくらいだったりする……?」
そう言った途端、厚石は苦笑いを浮かべて視線を横に逸らしてしまった。
あ、この反応はもしかして。
「……俺はまだマシな方だけど……晴矢と杏は、先生に「もうちょっと何とかならないんですか」って盛大な溜め息を吐かれたくらいかな……」
予感的中である。
友達の友達も壊滅的か
「因みに風介も似たような感じ」
「お前もか涼野……」
未だに騒いでいる緑川と南雲、いい加減にしろと二人を叩いた蓮池と、その光景を我関せずといった顔でお茶を飲んでいた涼野に目を向ける。
なんつーか、なぁ。
境遇だけじゃなく、似たような素質を持ってる奴等が多過ぎだと思うんだ、元エイリア学園。