01.桜舞う校舎で迎える

沢山の事が有った二年生。
FFの出場と優勝、エイリア学園の脅威と仲間との和解、FFI開催とイナズマジャパンが掴んだ栄光……とても内容の濃かった日々は、あっという間に過ぎていった。
雷門中というかウチのサッカー部はすっかり人気になっちゃって、普通に町内で過ごしてても声を掛けられたりサッカーやろうぜと頼まれたり……まぁその度に円堂は快く引き受けてたというか、自分がやりたいから相手になってたんだけどさ。
練習試合の申し込みも大量に来て、相手を選ぶのも返事をするのも大変だと夏未さんがぼやいてたっけなぁ。
年を越して季節が巡り、サッカーを中心として毎日を過ごしていたあたし達は、今日。
三年生に、進級します。



いつもより少し早い時間に家を出て、学校までの通学路を歩く。
クラス分けの掲示板前が混むのは間違い無いだろうし、あたしも三年のクラスがどんな結果になったのか気になって仕方無いから、早く見たいと思ってこの時間にした。
二年の時は秋やサッカー部員とは分かれちゃって少し寂しかったけど友達も出来たし、途中からは夏未さんと接点が出来たから話す事も増えて、鬼道さんとシャドウも転校して来て楽しく過ごせたから良いんだ。
特に鬼道さんとは一緒に行動する事が多かったなぁ……席替えしても毎回隣になったからっていうのも有るのだろう、あの席替え結果は本当に不思議だった。
今年はどうなるだろうか、出来ればサッカー部の誰かが一緒だと嬉しい。

「彼方、おはよう」
「ん? あ、おはよう鬼道さん」

声を掛けられたので振り返れば鬼道さんが居て、挨拶を交わした後に並ぶようにして歩く。
春休み中も練習や試合が多かったから、学校が始まっても久し振りという感覚は無いかな。

「だいぶ暖かくなってきたよね」
「そうだな、特に寒いのが苦手なお前にとっては良い事だろう。寒さが厳しい日は人のマントに包まろうとした事も有ったからな……」
「あっはは、ごめん」

呆れ顔で言った鬼道さんだけど、その表情は柔らかい。
去年の練習試合で初めて会った頃は悪人面が多かったのに、今ではすっかり丸くなったよなぁと思う……本人に言うと苦笑いを浮かべてちょっと傷付いちゃうようなので言わないけど。
学校に着き、今年の年度と雷門中学校始業式と書かれた看板が立て掛けてある校門を過ぎると、合宿所前に設置された掲示板にちらほらと人が集まっているのが見えた。
その中に見知った顔、染岡と半田が三年の掲示前に居るのを見付けたので、其処まで行って声を掛ける。

「おはよー二人共」
「おー彼方に鬼道、はよーッス」
「もうクラス分け見た?」
「俺と半田は別のクラスだとさ。煩いのと分かれて清々するぜ」
「なっ、お前だって結構二年のクラス楽しんでただろ!?」
「ははっ、冗談だジョーダン。それよか良かったなお前等、今年も同じみたいでよ」
「え?」

A組の所見てみろ、と染岡に言われたので鬼道さんと其方を向く。
其処には確かに鬼道さんとあたしの名前が書かれていて、三年でも一緒に過ごせるんだと分かり喜びが体内を占める。

「やった! 今年も宜しくっ!」
「此方こそだ。今年も退屈せずに済みそうだな」

他には誰か居ないのだろうかと一覧をじっくり見ていくと、同じA組では豪炎寺と冬花の名前を見付けた。
冬花はFFIが終わった後、雷門中に転校して来てマネージャーを続けていて、久遠監督も響木監督と一緒にサッカー部を指導してくれている。
豪炎寺も一緒というのも嬉しいな、部活の事や色々な話を聞いてもらう事が多いから、同じクラスなら今まで以上に気軽に話せるだろうし有難い。
あ、でもシスコンビが揃うって事になるのか……それはそれで周り(特に女子から)の反応が大変なような……ま、良いか気にしないでおこう。
他に目立つ人といえば、B組は円堂と染岡とシャドウと秋、C組はマックスと半田と目金と影野に夏未さん、D組は風丸ぐらいか……いや、目金弟も居るみたいだ。
ついでにと二年の掲示も見てみると、なんとこっちは壁山達と春奈が全員同じクラスだったから驚きだ。
今年は今年で良いクラスになりそうだな。

「俺達は教室に向かおう、もう少ししたら混んでくるだろうからな」
「だな。これから始業式かぁ……俺途中で寝ちゃってるかも」
「話長いもんな」

鬼道さんの提案を受けて下駄箱へ向かい靴を履き替え、階段を上って二人とは廊下で別れた。
A組の教室に入り、黒板に張り出されていた座席表を見て自分の席に荷物を置く。

「今回は隣じゃなかったね」
「アレはたまたまだろう。まぁ、もしかしたら今年も隣になる事が有るかもしれないがな」
「本当にそうなったら凄い確率だよなーあたし達」

予鈴のチャイムが鳴るまで喋っていようと鬼道さんの席の前に立って話していると、暫くして豪炎寺と冬花が教室に入って来た。
二人も此方に気付き、近くに来て笑みを浮かべる。

「おはようございます鬼道くん、侑紀さん」
「おはよ冬花、豪炎寺。一年間宜しく頼むよ」
「あぁ」
「鬼道くんと豪炎寺くんが同じクラスだと頼もしいですね、授業で分からない所とか聞けるから」
「フッ、テスト前はみっちり教えてやるから有難く思え」
「うわぁ助かるけど怖いな……」

そんなような事を話していたらチャイムの音が鳴り響いたので、それぞれの席に着く事にした。
担任の先生は温和なタイプで喋り方もゆっくりめなので眠気を誘われそうではあるが、あの先生なら生徒と衝突する事も無く過ごしていけるんじゃないかなと思う。
軽い自己紹介も兼ねたSHRが終わり、あたし達は始業式の為に体育館へと向かった。



午前中で終わった始業式の後は三年の数人で昼食を食べに行き、新入生との対面式で行なわれる部活紹介をどのようにするかを話し合って過ごした。
出るのはキャプテンである円堂と司令塔の鬼道さんに豪炎寺、女子部員であるあたしとマネージャー代表の秋の五人に決定。
一年の時から居る染岡と半田や、代表として活躍した風丸も出れば良かったのではという話も出たけど、壇上に立つのは苦手だとか他の部が大勢だからとかいう理由で無しとなった。
一応紹介文も纏める事になったが、円堂の事だから何を言うか忘れて「とにかく皆、サッカーやろうぜ!」なんていつも通りの台詞を言う事になるんだろうな。
それで鬼道さんが説明役に回るに違いない……そう思ったのはあたしだけではなかったようで、円堂以外は共感して笑っていたという。
夕方には別れ、夜を過ごし……そして、翌日の対面式最中の体育館裏。
サッカー部は目玉だから最後にやりますとの指示で、順番が来るまで話しながら待機していた。

「あー……緊張してきた……」
「もう円堂くんったら、去年もやったじゃない。いつも通りに自然な感じで言えば大丈夫よ」
「分かってるんだけどさぁ、こういう発表みたいなのって何回やっても慣れないんだよな……」

がしがしと頭を掻く円堂を見て、頑張れキャプテンと皆で肩を叩いた。
豪炎寺が「きっと虎丸も見てるぞ」と円堂に言えば、「ハードル上げるなよなぁ」って緊張が増したようだったけど。
豪炎寺は時々お茶目な面が出る。

「皆、出番よ」

生徒会長として会の進行を務めていた夏未さんが扉を開けて声を掛ける。
頬を叩いて気合を入れ直した円堂に続くように、大きな拍手を受けながらあたし達は壇上へと上がった。
新入生から期待の眼差しや在校生からの歓声が一斉に向けられて、あたしも何だか緊張してしまう。

「侑紀ちゃん、虎丸くん居たわ」

秋から小声で指し示された方を見れば、雷門の制服を着た虎丸が笑顔で此方に手を振っていた。
その事を三人にも伝えようとするが、マイクを持った円堂は緊張がピークに達してしまったようでカチコチに固まっている。
あ、紹介文の内容忘れたなコレ。

「え、えーと、お、俺達は……」
「落ち着け円堂、まず自己紹介とサッカー部の活動内容だ」
「あっ、そ、そっか。えっと……新入生の皆さん、こんにちは! 雷門サッカー部のキャプテン、円堂守です! それで、えぇっと…………あー、とにかく皆! 俺達と一緒にサッカーやろうぜ!!」

案の定全てすっ飛ばしてお決まりの台詞を言い放った円堂に、鬼道さんは額を押さえて溜め息を吐き、あたし達は苦笑、場内からはどっと笑い声が沸き起こった。
舞台袖では夏未さんも呆れ顔で溜め息を吐いているのだろうな……実際には見てないけど、この予想は外れていないと思う。
在校生側に居る現サッカー部員達も、呆れるか笑っているかのどちらかだと思われる。

「円堂……お前な……」
「ご、ごめん鬼道……あ、後は任せたっ!」
「な、おいっ! ……全く、やはりこうなるのか……」

円堂がマイクを押し付けるわ鬼道さんは呆れてるわで、何だろうこのプチコント状態、また場内から笑いが起こる。
結局鬼道さんが説明を全てこなす事になり、その後はマイクを回して一言ずつ言う事になった。
さっきの笑いであたしの緊張も解れたようで、豪炎寺から手渡されたソレを受け取り、軽く深呼吸をしてから新入生の方に向き直る。

「三年の彼方侑紀です。女子部員は今あたし一人ですが、サッカーをしてみたいって思う女の子は遠慮せずに来てほしいな。あたし達と一緒にサッカーやろう!」

無事に言い終えてふぅと息を吐くと拍手を貰い、女子生徒の何人かはあたしに笑ってくれていた。
どうなるかは分からないけど、ああいう子達が入部してくれたら良いのになぁ。
ちょうどその時割り当てられた時間が終わったので舞台袖に下がり、入った時と同じように裏の扉から外に出た。
……出る直前、円堂は夏未さんからお小言を貰っていたみたいだけど。

「やっぱり全部ド忘れしてああなったなー円堂」
「途中までは覚えてたんだけど、あそこに立ってマイク持ったら頭ん中真っ白になっちゃってさぁ」
「ふふ、円堂くんらしいけどね」
「そうだな」
「……なぁ、ソレって褒めてる? それとも馬鹿にされてるのか?」
「褒め言葉として受け取っておけ」

今年のサッカー部も、大体こんな感じでやっていくのだろう。
春の暖かな風に乗って舞って来た桜の花びらが目の前を行くのを見送りながら、あたし達はそう思い笑っていた。



新たな日々に祝福と歓迎を


「円堂さん! みなさーん!」

帰る支度を終えて部室を出ると、校舎を出た虎丸が手を振りながら此方へと駆けて来た。
制服にショルダーバックを提げているその姿は、すっかり雷門生の一人だ。

「もー何ですか円堂さん、あの部活紹介! 身内の恥を見てるようでこっちまで恥ずかしかったじゃないですか」
「あ、あはは、悪い……」
「入学おめでとう、虎丸」
「有難う御座います!」

それからコレ! と言って、虎丸は一枚の紙を円堂に差し出した。
何なのか見てみればソレは先生から貰う入部届けの紙で、入部希望欄にはサッカー部、氏名欄には宇都宮虎丸と大きめの字で書き込まれている。

「俺、入学式が終わったら真っ先に渡しに行こうと思ってたんです。誰よりも早くサッカー部に入りたくて!」
「そっかぁ、アリガトな虎丸! これからサッカー部の一員としてまた宜しくな!」
「はいっ!」

嬉しそうにしている二人を見て、そのやり取りを見ていたあたし達も自然と笑みが浮かぶ。
今年度最初の新入部員を迎えたサッカー部は、これから益々賑やかになりそうである。