01.守くんといっしょ
なんとなーく、だったんだよね最初は。
サッカーってなぁに? 面白いの? そんな風にしか思ってなかった子供の頃、お友達と遊んだり出掛けたりしてた内にサッカーの楽しさを知って、私もやりたいなって思うようになっていったんだ。
今じゃ「サッカーが無い日なんて考えられない!」ってぐらいにサッカーが大好きで、中学は絶対雷門中に行くんだーってずっと思ってた。
場所が稲妻町内に有るからっていうのも、理由の一つではあったけど……絶対行きたいって思うようになったのは、10年前のFFとFFIの時に出場していた皆と出会ったから。
円堂守くんがキャプテンを務めていた雷門イレブンとイナズマジャパンの皆が、私にとって大事なお兄ちゃんとお姉ちゃんになったからなんだ。
とても大事な、とってもとーっても大好きな皆が過ごした雷門中学校で、サッカーをやりたいっていうのが私の夢だったの。
あ、一部雷門生じゃないよねっていうツッコミはスルーしてクダサイ。
……私達が大きくなる間に、サッカーを中心とした世界は大変な事になっちゃったけど……それでも諦めずに続けていきたいと思えたのは、皆と過ごした沢山の思い出が背中を押してくれたから。
サッカーやっていたい、もっと上手くなって皆に認めてもらえるような選手になりたいって思う自分が居たから、走ってこれた。
大好きな皆。
今までも、これからも、そんな皆と一緒の時間を過ごしていけたら良いなって、思うんだ。
「よっ、ほっ……よしこのまっまあぁっ!?」
コケて顔からずべしゃあっと床にぶつかる。
コロコロと転がったボールがすぐ近くで止まったのが分かるぐらい、私は床のタイルと仲良しさん状態だ。
「うー、もうちょっとだったのになぁ……」
河川敷駅に有るサッカー場に来た私は、近くに有る広場の床のタイルを選手に見立ててドリブルするっていう自主練習をしていたんだけど……あと半周で目標分を達成出来るって所で転んじゃった。
うん、顔も膝も腕も全部痛いね。
「おーい、果澄ー! 大丈夫かー?」
「ん……? あっ、守くん!」
私以外誰も居なかった此処で名前を呼ぶ声が聞こえて顔を上げれば、階段を下りて来る守くんの姿が見えた。
ずっと倒れててもしょうがないし身体を起こして座ると、守くんは私の傍までやって来て手を差し伸べる。
「立てるか?」
「うん、アリガト~」
その手を取って笑って答えながら立ち上がり、ユニフォームに付いちゃった汚れを手で落としてると守くんも笑う。
「また派手に転んだなぁ」
「あっはは、失敗しちゃった! でもケガはしてないから大丈夫だよ」
「なら良かった」
なでなで。
守くんの大きな手が私の頭を撫でてくれる。
誰かに頭を撫でてもらうのは前から好きだけど、守くんの手はあったかくて優しくて気持ち良いから特に好きで、私もあったかい気持ちになるんだ。
お日さまのような笑顔と手の温かさなら守くんは誰にも負けないと思う。
勿論、ソレ以外にも負けない所はいっぱい有るけどね。
少し休憩したらどうだって言う守くんに頷いて返して、ゴールの横に置いといたバッグからタオルを出して顔を拭く。
……そういえば、自販機でお水買おうと思ってたのに忘れてたや……ちょっと買って来るねって言おうと思ったら、守くんは引いてくれた手とは反対の手に持ってたビニール袋から、お水の入ったペットボトルを取り出して私に手渡してくれた。
守くんって実はエスパー……!?
「此処に居るだろうから買って行くと良いって鬼道が言ってたんだ」
「あ、そうなの?」
エスパーなのは守くんじゃなくて有人くんの方だったみたいである。
貰ったお水にお礼を言ってから、芝生の上に座って飲んでいれば守くんも隣に座る。
有人くんから聞いたって事は、私に何か用事だったのかなぁ。
「ね、まも……」
「こうやって果澄と二人っきりで話すってのも久し振りだよな」
「えっ? あー、そうだねぇ。いつも皆の練習見てくれてるし、私も誰かと居る事が多いからなぁ」
「悪いな、あまり構ってやれなくて」
「ううん、皆と一緒にサッカーやれて楽しいし、守くん達が指導してくれるのも嬉しいよ! ……んー、そりゃね? もっといっぱいお話出来たら良いなーとは、思ってたけど……」
守くんは、道也監督が辞めさせられちゃった後に雷門へとやって来た。
プロリーグで活躍してたのは知ってたし、暫く会えないんだなぁっていうのも分かってたからあの時はホントにビックリしたな。
また会えるようになって嬉しかったけど、ホーリーロードを勝ち進んで革命を成功させる為にはいっぱい練習しないといけないから、監督で忙しい守くんを独り占めというか幸人くんと一緒に二人占め? するのはダメかぁって思ってたんだ。
皆も守くん大好きだしね。
それに、私は女の子だから公式戦には出られないし……普段の部活以外に皆がレベルアップ出来る時間を奪っちゃいけないよね、って、皆にも守くん達にも迷惑掛けちゃうからって。
「……思ってたけど?」
「思ってた、……けど…………やっぱり私、もっと守くんとお話したい」
ペットボトルを右手で持って、膝を抱えるように体育座りの体勢になったまま言う。
「いっぱい遊んでほしいし構ってほしい。春奈ちゃんにも有人くんにも、皆にも」
……でも、コレは私のワガママだから、ガマンしなきゃなんだ。
ガマンして、皆が強くなっていくように私も沢山練習して強くなっていけば良い。
そうすればきっと、革命を成功させて時間が出来たら、きっと。
「……お前は、その言葉を素直に口にすれば良いんだよ」
ぽん、と守くんの手が、私の頭に置かれて。
それからまた、なでなでって撫でてくれた。
ビックリして守くんの顔を見れば、守くんは優しく笑っている。
「甘える事は悪い事じゃあない。まぁ、皆もやる事が有るから必ず応えるって保障はしてやれないけど、言われて迷惑だと思う奴は居ないって」
「……ホント……?」
「本当。何年の付き合いだと思ってるんだ? 俺達、10年近くもお前達の兄ちゃんやってるんだぞ?」
大丈夫だ、そう守くんは言う。
……良いの? ホントのホントに、甘えて良いの? 構ってほしいって言っても良いの?
もう一回聞けば、守くんはニカッと笑って「良いんだよ」と言ってくれた。
「じゃ、じゃあ! じゃあっ! 今ぎゅーって抱き付いても良いですかっ!?」
「おう! ドーンと飛び込んで来い!!」
ペットボトルを放して、両手を広げて迎えてくれている守くんの胸に飛び込む。
ぎゅうぎゅう、ぎゅうむむ。
そんな音がピッタリなぐらいにぎゅーってすれば、守くんもぎゅうって力強いけれど優しく抱き返してくれる。
あったかい守くんの腕の中。
こんな風に抱き付かせてもらったのは、いつ振りだろう。
「それにな、果澄。今だからこそ話せる事っていうのも結構有るんだぞ」
「今だからこそ、話せる事?」
「ホーリーロードに出場している事、革命を起こそうとしている事。終わってからじゃ話せない事も沢山有る。俺はお前や皆に、そういった話をする事も含めて経験を積んでもらいたいんだ」
「話す事も、経験……」
「そうだ。話す事でヒントを貰って成長に繋げていく事だって出来る、現にお前達は俺達と話して得たモノも多いだろ?」
「うん、いっぱい有るよ!」
「だったら、遠慮せずにぶつかって来れば良い。俺達は雷門の先輩として、そして兄ちゃんとして、お前達に伝えていきたいモノが沢山有るんだからな」
楽しいって気持ちも苦しいって気持ちも、甘えたいって気持ちも全部受け止めてやる。
身体を離した守くんは、真っ直ぐに私の目を見ながらそう言った。
「あと、これからもっと頑張る為に構ってほしい、頑張ったからご褒美に構ってほしいって言うのも有りかもな?」
「ご褒美……!」
その言葉を聞いた私は、放っておいたペットボトルを拾ってもう一度フタを開けて飲み、閉めて立ち上がりバッグの近くに置いた。
それから、さっき練習をしていた所に戻ってボールを拾う。
「……守くん、私決めたよ! もっと頑張る為にも強くなる為にも、今までみたいに皆に突撃してく! 相手してもらえない事も、有るだろうけど……会いに行ったり、会えた時にはいっぱいお話したい。で、今は甘えさせてもらった分の練習の続きを化身が出せるようになるぐらい頑張るっ!!」
「化身を出せるぐらいかぁ、そりゃ凄いな!」
「そんだけの勢いで頑張るって事!!」
だから、見ててね!
守くんの方を見ながら言ってボールを放り、さっきやってたのと同じように床のタイルを目印にドリブルをしていく。
コレが目標まで終わったら今度はシュート練習に切り替えて、それからそれからー……とにかくいっぱい! やる!!
やっぱり大好きだって、思ったから。
サッカーも、守くんや皆の事も。
「……これで果澄も大丈夫かな」
そう言っていた守くんの声は、私には聞こえなかったけど。
見守ってくれている大好きなお兄ちゃんの存在が私に力をくれるから、気にしないのでっす。
大好きだから、甘えたいの!
「円堂」
「ん、どうした鬼道」
「さっき果澄が必殺技を使うような勢いで突っ込んで来たんだが……昨日何か言ったのか?」
「あ、あれ……? 突撃ってそっちの意味だったのかなぁ……」
気にしないのでっす!