04.違うモノ同じモノ
ちょこちょこと話をして、皆もご馳走様をした後。
私はタダ飯を貰ってしまった分を少しでも労働で返そうと、食器洗いをさせてもらう事にした。
洗濯物を干す作業も有るらしいので春奈ちゃんと冬花ちゃんはそっちを担当して、秋ちゃんは食器を拭くのはやると言って譲らなかったので一緒にやる事に。
大量の食器も調理器具も油一つ残さないぐらい綺麗にして、拭き終わった鍋を最後に棚に片付けて、と……よし、終わりっ!
「有難う御座います、万里さん」
「いやいや、お礼を言うのは私の方だからさ。本当にご馳走様でした。……さてと、ぴよ捜し再開しようかな。荷物は置かせてもらってても良い?」
「はい、私達も他の事を終わらせたら手伝いに行きますね」
「ん、アリガト!」
秋ちゃんにまた後でと言って、宿舎の玄関へと向かう。
外に出て周りを見渡しつつ何処へ行こうかなーと考えていると、「万里姉ちゃん!」と守が宿舎前に有るグラウンドの中から私を呼んだ。
守の他にも数人グラウンドの中やフェンスの側できょろきょろと辺りを見ているので、もしかして私が洗い物をしてた間ぴよを捜してくれていたのだろうか。
開いていたフェンスの扉を通ってグラウンドの中に入る。
「皆、先に捜してくれてたの?」
「あぁ。取り敢えず近場からと思って捜してるんだけど、居ないみたいだ」
「そっかぁ……」
守と話していると、この辺りで捜してくれていた子達も集まって来て、ぴよは居なかったという報告をしてくれた。
えーと確か、青髪ポニテくんが一郎太、太眉垂れ目くんが士郎で……二人して髪を逆立ててるのが修也と虎丸、赤髪で若干肌の色が悪い(失礼)のがヒロト、ゴーグルマントくんが有人で眼帯をしてるのが次郎、だっけな。
他にも数人、ちょっと離れた所まで捜しに行ってくれているらしい。
「有り難いけど何か申し訳無いなぁ……」
「気にしないで下さい、俺達も好きで手伝いに参加してるんですから」
「それに、練習までの軽い運動にもなるしな」
「あ、そうだ練習って何時から?」
「まだ30分ぐらい有るから大丈夫です。それまでに皆も戻って来るさ」
「そっか、なら良かった」
練習の合間に手伝ってくれてるんだから、肝心な練習に遅刻させちゃう訳にはいかないもんね。
中学サッカーの世界一を決める大会、FFIかぁ……それでこの子達は、決勝トーナメント出場を決めている実力の持ち主だという話で。
……そんな子達がどんなサッカーをするのか、ちょっと気になるなぁ、なんて…………うず。
「皆のポジションって何処?」
「俺と豪炎寺さん、吹雪さんヒロトさん佐久間さんはFWです」
「鬼道はMFで、俺はDF。豪炎寺と虎丸と鬼道は固定だけど、俺達は別のポジションで試合に出る事も有ります」
「で、俺はGK! 海で会った時、俺がやってたのはGKの特訓なんだ」
「へぇ……そっかそっか、此処で初めて会った子がGKだったって何か親近感湧くなぁ」
「親近感?」
「何を隠そう私もGKだからね~」
「えぇっ!?」
万里姉ちゃんもサッカープレイヤーなのか!? そう言った守だけでなく、皆も驚いているようだった。
「こう見えて女子サッカー部の正GKなんですよーう。ウチのチームだって結構強いんだから」
「ほう、それは興味が有りますね」
「……っつか気になってたんだけどさ、こっちのサッカーってマントはセーフなの?」
「…………マントはセーフです」
私の質問に苦笑いを浮かべながら答えた有人に周りはプッと噴き出して、お前等……いやゴメンつい、なんてやり取りがされる。
マントがセーフなんてこっちのサッカーは変わってるなぁ……あー変わってるといえば皆の髪もそうだ、青赤緑紫ピンクなどカラフルな地毛が多いようで。
一部髪型も気になったんだけど、モヒカンやリーゼントってあっちじゃすぐ校則違反の指導タイム突入になるんだが、こっちだと平気なんだろうか。
「ボール受けてみたいなーって思うんだけど、相手してくれる子!」
「はいっ、俺やります!」
挙手で聞いてみたら虎丸が同じノリで挙手して答えてくれたのでお願いして、グローブを取りに行く事を告げてから一旦宿舎に戻る。
食堂に置かせてもらってたバッグの中からグローブを取り出してまたグラウンドに向かい、虎丸がボールを置いて待つゴール前に立った。
皆が観ている中、私はグローブを手に嵌めて両手を構え、腰を落としボールを受ける体勢を取る。
「少し手加減した方が良いですか?」
「お姉さんをナメんなよー? 全力で来いっ!」
「分かりました。それじゃあいきますよ!」
虎丸の合図に頷き、一つ息を吐いてから向こうの動き方をじっと注視する。
蹴り出す足はどちらか爪先の角度はどうか、ゴールの何処を狙っているか、見定めて判断を下す為に。
掛け声と共に蹴り出されたボールは、真っ直ぐ此方へ向かって──いや、このボールは右上の隅を狙って飛んで来る!
私は瞬時に右へと跳び、予想通り右上に向かって軌道を変えたボールを両手で捉えた。
「うっそぉ!?」
「よっ……と。残念だったねぇ虎丸くん、私の勝ちー」
がっちりキャッチして体勢を変えて着地し、虎丸に向かってニッと笑いながらピースを向けた。
今の結構気合入れて蹴ったのにー……と虎丸はしょんぼり肩を落としている。
私達の勝負を見ていた皆にも、同じように衝撃を与える事が出来たようだった。
「虎丸のシュートが軽々と止められるとは……」
「その自信は実力が有るからこそ、って事か」
「スッゲー! 万里姉ちゃんスッゲーな!!」
「へへ、アリガト~」
すると虎丸が「もっかい! もう一回やらせて下さい!」とちょっと拗ね気味に言ってきたので、OKを言ってボールを返した。
再度虎丸がボールをセットして狙いを付けようとしていたその時、「ちょっと待って」と静止の声を掛けられたので中断する。
「ヒロトさん?」
「今度は俺がやっても良いかな? 観てたらやりたくなっちゃって」
「お、次の挑戦者って事? 良いよーどんどん撃ってきて!」
ニコリと笑って立候補してきたヒロトが虎丸を宥めつつ交代し、今度の相手はヒロトに。
その次は次郎、またその次は一郎太、有人に士郎という順番で次々と受け続ける事になり……私は何とか、全員のシュートをパンチングも含めて止める事が出来た。
まぁ、受け止めたボールを抑え損ねて危うくラインを超えちゃいそうになった事も有ったけど、ね。
それで受け続けて私は感じた、確かにこの子達は世界の強豪を相手に勝ち進んできた実力を持っている選手なんだ、と。
きっと試合になったら今以上の力を発揮するんだろう……そしたら私は全く防げないかもしれないね。
じんと掌に響き渡る力強さが皆の蹴ったボールには込められていたというのが、未だ受けた感触が残っているのでよく分かった。
「最後は俺だな」
「頑張れよ豪炎寺、ゴールを奪ってやれ! でも万里姉ちゃんも頑張れーっ!」
あっは、どっちも応援しちゃうのが守の良い所なんだろうなぁ。
この中で一番強いのは修也らしいので、私も負けじと気合いを入れて受ける体勢を取る。
「本気でいかせてもらいます」
「ん、来いっ!」
キリッと強い眼差しで私を見て言った修也が起こした次の動作は、というと。
グッと踏み込んでボールを、ゴールに向かってではなく真上に向けて蹴り上げたのだ。
え、真上? 何で? 不思議に思いながら見ていると、ボールに続いて修也も真上に高く跳んで。
そのままぐるっと空中で身体を回したと思ったら……修也の左足から、真っ赤な炎が現れたではないか。
「!?」
コレは一体どういう現象なんだ。
炎は素早く回転する修也の動きと共に大きさを増していき、コレが最大だという所で一旦動きを止めて。
「ファイアトルネード改!!」
炎をボールに込めるかのようにして、ゴールに向かって力強くシュートを放ってきた。
大きな炎を纏ったボールは、勢い良く此方に飛んで来て──ってちょっと待って、待って!? どういう事!?
しかし待ってと思っても待ってくれる訳が無く、ゴオッと大きさを増した炎は一直線に向かって来……いやいやいやいや、こんなの止められる訳ないでしょーよ!!?
「は、ちょっ…………っうわああぁぁぁぁッ!!!??」
無理だと判断した私が選んだコマンドは、逃走。
ボールにも炎にも当たらないよう横に跳んで受身を取り、頭を抱えてしゃがみ込んだ。
そして修也の放った炎のシュートは大きな音を立てながらゴールに突き刺さり、次第に消えた炎と共に力を失ったボールはてん、てんと小さく跳ねながら転がっていった…………えー、と?
「流石に万里さんも、豪炎寺のシュートは止められなかったみたいだな」
「以前よりまた一段と威力が上がったんじゃないか?」
「いや、いやいやあのさ、あのさ? 関心してる場合じゃなくてさ?? 君達平然としてるけどさっきの何!?」
「え?」
「え? じゃなくって! 足から炎出たし回転してたよ!? アレ何!!?」
しゃがんだままそう問えば皆はキョトンとして、それがちょっと可愛く見えたり……なんて事を思ってる場合じゃないです。
「何って……必殺技、だけど」
「必殺技ぁ……?」
「あぁ。豪炎寺の必殺技の一つ、ファイアトルネード改だ。……もしかして、必殺技を見るのは初めてだとか?」
「初めても何も、あんなのこっちのサッカーには無いよっ!!」
必殺技、って……ゲームや漫画に出て来るようなモノが、こっちのサッカーには普通に有るというの……
「そうか、此方の世界では当たり前に存在している必殺技も、万里さんの世界では存在しないモノなのだな」
「オーバーヘッドキックとかは有るけど、さっきみたいな魔法っぽいのは無いよ……まさか皆も、あんな感じの必殺技使えちゃったりするの?」
「うん、豪炎寺くんのようなモノだけじゃなく色々なのが有るんだ。イナズマジャパンの皆も世界中のサッカープレイヤー達も、必殺技を使えるんですよ」
「そ、そうなんだー……」
あんなシュート止められる訳が無い、当たったらヤバイと本気で思ったよ。
そう言うと、「驚かせてすみません」と修也は謝って私の手を引いて立たせてくれた。
「豪炎寺くんは負けず嫌いだからね」って士郎がのほほんと笑って言ったけれど……負けず嫌いというか、容赦が無いようにも思える。
「……なぁ。もしかしてこっちのサッカー、嫌いになったか?」
ふぅと息を吐きながらグローブを手から外していると、守が少し不安げな顔でそう聞いてきた。
嫌い……いやまぁ、初めて見た必殺技には、かなり驚いたけど。
皆のシュートを止めれた時は楽しかったし、どんなシュートを撃ってくるんだろうってワクワクしてた、から。
「なってないよ。ビックリはした、でもちょっと興味も湧いた」
「興味?」
「他にもいっぱい必殺技っての有るんでしょ? どんなのが有るのか見てみたいなーって思うよ。」
「ははっ、そっか!」
じゃあ後で練習する時にも見せてやるよ! そう言って守は不安げな顔から、またいつものような笑顔を浮かべた。
皆も守の晴れやかな笑顔に影響を受けたかのように、柔らかい笑みを浮かべている。
こんな表情をさせるサッカーは、この子達にとっても楽しくて仕方無いモノなんだろうなぁ。
「万里さん、さっきは駄目だったけど次はゴールを奪ってみせますからね!」
「なーに宣戦布告? よし受けて立とうじゃないの、今度も私が勝つぞー!」
「万里さんも結構負けず嫌いなんですね」
「そりゃあ、私もサッカーが大好きだからさっ!」
こっちのサッカーは必殺技なんつーぶっ飛んだモノが有るようだけど、サッカーを好きだって気持ちは何処も同じだ。
サッカーを通してまた少し皆と近付けた気がするから、回数を重ねていけばもっと仲良くなれるんだろうなと、確信にも似た感覚を私は抱いていた。
想いは何処も変わらずで
「ところで万里さん、ぴよ捜し再開しなくて良いんですか?」
「あっ」
しかし、楽しむのも程々に、である。