05.見学捜索迷子なう

うっかり勝負に没頭してぴよ捜しを中断しちゃってたので、よーしじゃあ再開すっか! と思った所で皆は練習の時間になってしまい。
じゃあ皆の練習の邪魔にならないように今度こそ捜しに行こう! としたのだけれど。
何故か今も私はグラウンドに居て、しかもベンチに座って練習を見学しているという……あれ。

「何でかなーモヒカンくん。」
「知らねぇしモヒカンくん言うな。」

私の隣で同じようにベンチに座って皆の練習を眺めているモヒカンくんこと不動明王に話し掛けてみるが、こっちを見る事無くそう返されてしまった。
初めての会話がコレって。
まぁ食堂で話してた時も一人だけフーンって感じで聞いてたようだし、名前もさっき有人に教えてもらうまで知らないままだったしなぁ。
あの神様と同じ字を書く名前といいスキンヘッドモヒカンな髪形といい、このメンバーの中でもまた一風変わった子のようだ……字だけ先に見てたら「あきお」じゃなく「みょうおう」って読んじゃってたかもしれない。

「明王のポジションってどこ?」
「馴れ馴れしく呼ぶなよ」
「モヒカンくん言うなって言うからー」
「チッ…………MF」

あからさまな舌打ちとめんどくさそうな顔をされたけども、一応質問には答えてくれたので良しとしよう。
明王は目の前で行なわれている紅白戦をじっと見詰めていて、皆の動きに合わせて視線も動いているようだ。
こうやって選手の動きを観察してて、そんでMFって事は、明王は戦略を考えたり皆に指示を出したりする司令塔タイプなのかもしれないな。
司令塔といえば、有人も次々と指示を送っては周りの状況を見て的確に次の動作に移っているようだし、こっちもそうなのかも……成程W司令塔スタイルか、そういう構成も良いねぇ。
あ、もしかしてゴーグルマントなのも司令塔っぽさを出す為? いや分かんないけどさ、そう思っとく事にしよう。

「ドラゴンスレイヤーV2!!」
「おっ?」

強面ピンクヘアーの竜吾が初めて聞く言葉を言ってシュートの体勢に入ったと思ったら、次の瞬間二本足で立つ大きな青い竜がドーン! と現れた。
青い竜の吐いたブレスと共に、竜吾の撃ったシュートはチームのもう一人のGKである勇気の守るゴールへと勢い良く向かって行く。

「魔王・ザ・ハンド!!」

すると勇気も大きな声で何かを言い胸を張るように両腕を引くと、紫色の肌をした人のようなモノが勇気の背後に現れた。
マオウ? は、両手を前に出す体勢を取った勇気と同じ動きをして、青い竜のブレスを纏ったボールを受け止める。
強い衝撃波を生みながら回転するボールを、勇気はゴール前で踏ん張って受け止めようとして……無事、ボールを受け止める事に成功した。

「ふう……何とか止められたぞ」
「くそっ駄目だったか!」
「ドンマイ染岡! 今度はイケるハズさ!」
「おう!」

自分のゴールから声を掛ける守に竜吾も応え、自分達のエリアへと戻って行った。
色んな必殺技が有るとは聞いてたけど、人外且つデカイ何かが現れたりする事も有るのか……凄いなぁ、必殺技って。
選手が必殺技の名前を言ったりするのも、そして放たれる必殺技も迫力が有って、私が今までやってたあっちのサッカーよりも見応えが有るかもしれないと思った。
どんなのが飛び出すのかワクワクする。
興奮のような昂ぶりが、私の中に生まれる。

「ねぇねぇ! ああいうの以外にも何か出て来たりする必殺技って有るの!?」

テンションが上がってる勢いのまま身を乗り出すようにして明王に聞くと、私の動きに驚きながらやっと明王はこっちを向いてくれて。
パチパチと瞬きをした後、冷静さを取り戻して返事をくれる。

「……魔神とか、虎とか狼とか」
「へー! 他には? どんなのが有る?」
「風や氷、波や流星とか? ペンギンなんかも出たりするぜ」
「えっペンギン!? 出て来たらどんな風になるの?」
「地面から生えたり空飛んだりして突っ込んでく」

地面から生えるペンギンって何ソレ……すっごい気になる、超見たい。
ワクワクそわそわしながら紅白戦の展開を観ていると、「……っつーかさ」と明王が言う。

「アンタ探し物有るんじゃねーの? 此処でのんびりしてて良いのかよ」
「ハッ!」
「あんま部外者に居座られてっと集中出来無ぇんだけど。ガキみてぇにはしゃいでないで、さっさと捜しに行けよな、オネーサン」

か、可愛くない……
私に言った後すぐ明王はフィールドに目線を戻してしまい、またこっちを見る事は無かった。
でも確かにこの子の言う通りだ、こっちのサッカーに夢中になってばっかりじゃ、ぴよを見付けて帰るなんて出来やしないだろう。
……うん、何故練習を観てるのかってのは、さっき守に色んな必殺技を見せるって約束をしてもらったからっていうのと……グラウンドを出て行こうとしたら入って来た子達に「観ていけば良いじゃん」と言われたから、だったね。
楽しむのも程々に、やるべき事はやらなきゃ駄目だ。

「アリガト明王! ちょっくらぴよ捜し再開してくる!」

傍らに置いといたグローブを持って立ち上がり、明王にそう告げ急ぎ足でグラウンドを後にした。
グローブ持っててもしょうがないからと、また宿舎に戻ってバッグに突っ込み口を閉じる。

「さっき、向こうの通りと海岸は捜してきたって言ってたよね」

宿舎から向かって右側の通りは塀吾郎と夕弥と勇気の一年生ズが、目撃情報が無いかを聞きながら行ってくれたらしい。
海岸辺りは条介と雷電が、草木が生えている所も調べたりしながら捜してくれたそうだ。
それじゃあ次に向かってみようと思う場所は、と……宿舎から向かって左側の通り、かな。
この島はかなり広いらしいけど何とかなるよね、きっと。
もし見付けられなかったとしても練習が終わる頃までには戻って来た方が良いかな、とグラウンドの様子をチラッと見ながら思う。
戻って来たらこのチームの監督であり保護者である久遠さんと響木さんに相談してみよう、少しだけお邪魔しても良いでしょうか、って。
お金は一応持ってるけど2000円ぐらいだし、あっちのお金が此処で使えるのか分からなければ泊まれる所が有るのかも分かんないし……流石に野宿は止めた方が良いだろうから、ねぇ。
久遠さんは指導の感じを見ると厳しそうな人みたいだけど、そこまで鬼ではない……と思いたい、ウン。

「よっし、行くか!」

気合いを入れ直して、私は左手の方向へと歩き出した。
……そうして私が去った後、

「…………別に礼言われるような事は言ってねぇだろ」

そんなような事をベンチで呟いてたらしい子が居たってのは、知る事は無かったけど。



「本当よく出来てる所だなー……」

暫く歩いて行って私が思った事は、ジャパンエリアという名前の通り定番の日本家屋って感じの建物と親しみ易い街並が造られてる所だなぁ、という事だった。
等間隔ぐらいの幅で立てられている電柱に引かれている電線、時々立っている木製の看板等が更に日本の印象を強く表していて、此処は本当に海外なのか? と思わせる。
海外っつーか、私にとっては異世界なんだけども。
商店街のような通りでは日本人観光客が多く、守達が着ていた青色のイナズマジャパンユニフォームのレプリカを着ている人もちらほら見掛けた。
皆日本から自分の国の代表を応援しに来てるんだな、機会が有ったら私も日本代表の試合を観に外国まで行ったりしてみたいかも。
その為には、ぴよを見付けてちゃんと家に帰らないとだ。

「でも、居ないなーぴよ」

物陰に隠れてたりしないかなーって地面近くも見ながら捜しているのだが、黄色いもふもふはなかなか見付けられなかった。
本当何処に行っちゃったんだろう? もしかして他のエリアにまで行っちゃってたりするのかもしれない。
そうだとしたら私一人で捜すのは難しく、皆の協力が必要になるんだけども……なるべくなら、自由時間の時はのんびり過ごしてもらいたいし、なぁ。
出来ればこの辺りでぴよを見付けてしまいたい。

「……そうだ。あの時周りには誰も居なかったし、人通り無さそうな場所にも行ってみよう」

人の多い通りを出た私は、今度は人が少ない通りに行って捜してみる事にした。
静かな場所でぴよ呼んだら出て来てくれないかなーなんて思ったりもするし。

「おーい、ぴよー!」

私以外の人は居ない通りまでやって来た私は、ぴよに呼び掛けながらきょろきょろと周りを見つつ歩いて行く。
静かな通りに響き渡る私の声、けれど応えは一つも無く。
や、ぴよを呼んで「はーい」とか返って来ても困るっちゃ困るけど。

「ぴよー? 何処行っちゃったのー?」

しーん。
物音一つしない。
……うーん、また場所を変えた方が良いかもしれないな。
そう思った私は次の角を曲がってみようと曲がり角までやって来て、曲がった先の道に目を向けた。
目を向けたが。
視界の端を、黄色いモノが横切ったような気がして。

「えっ?」

驚いて振り向いて確認してみるが、何も居ない。
でも、気になって来た道を戻ろうとすると、今度は反対の視界の端に黄色いモノが見えたような気がして。
もう一度振り向いてみる、何も居ない。
ただの錯覚だったのかもしれないな……と溜め息を吐いて、今度こそ角を曲がって進もうと角を曲がった。
曲がった、その先。

「ぴ」
「……ん?」


piyodot02.gif
▼ぴよ が あらわれた!


ぴよ、居た。
曲がった先の道の上、ではなくてコンクリ製の塀の上、に。
黄色くて丸いもふもふ、普通のひよこよりも大きいサイズのぴよが、居た。

「……あーっ!! ぴよ見付けたぁー!!!」

ズビシ! と人差し指でぴよを指しながら驚きの声を上げると、途端ぴよは後ろを向いて塀の上を、てててーっと駆け出して行ってしまった。
ちょっ、ちょっと待った! 待って行かないで!!

「待ってぴよ! ぴよーっ!!」

ぴよを追い駆けて私も走り出す。
しかしぴよは、あの時のような何処からそのスピード出してんだって速さで駆けて行ってしまう。
しかも、ぴょーんぴょーんと器用に塀と塀の間を跳び越えて行きながら。
その跳躍力どっから出してんの!?
追い駆けても追い駆けてもぴよには追い付けなくて、呼んでも呼んでも止まってくれなくて、振り向いてもくれなくて。
何で、どうしてなの? 君は何処に行こうとしてるの?
そんな疑問を抱きながら追い駆け続けて、もう何度目か分からない角を曲がった所で。

「…………は、……う、そ……」

ぴよを、見失ってしまった──

「……嘘、でしょ……見付けたと思ったのに、帰れると思ったのに……」

塀の上にも道の上にも、辺りを見回してみてもぴよの姿は何処にも無い。
見失ってしまったショックと、走り続けて上がり始めた息とで、私は目の前に有った電柱に手を付いて項垂れた。
見付けたのに帰れなかった、追い付けもしなければまたあの変な穴にダイブ出来もしなかった。
折角のチャンスを、私は逃してしまったんだ…………

「……って、いうか。あ、れ?」

そして私は気付く。
ぴよばかり見て走って来たから、何処をどの順番で通って来たのか分からない事に。
此処までどれくらいの距離を走って来たのか、戻る為にはどう通って行けば良いのか、分からない事に。
運動によって浮かんだ汗だけでなく、焦りによって出た冷や汗も伝うのを感じる。
……ヤバイ。

「迷子に、なった」

本日二度目の、どこだ、ここ。



見知らぬ場所で迷子なう


ど、どうしよう。