09.忘れられない思い出を胸に

暫く話をして盛り上がった後、そろそろ出るか~という流れになったので私達はお暇する事にした。
それで皆がお会計を始めたので私も同じようにラーメン代を払おうと思ったのだけど、「奢りだから」と言われてしまい渡せず。
じゃあ食器洗うのだけでも! と食い下がっても同じ返答をされてしまったので、有り難くゴチになる事にしました。
征矢にご馳走様を言ってお辞儀をして、先に出ていた守達に続いて私も雷雷軒を出る。
その際手を振りながら出たのだけど、征矢も軽く手を挙げて応えてくれたから嬉しかったな。

「さて、この後はどうする? 12時過ぎてるけど」
「いつもなら解散の流れではあるが……」

そう守と有人が言うと、皆が同時に私を見たのでビクッとしてしまった。
あ、これは私の意見によってどうするか決まる感じ、なのかな? ならどう答えたら良いだろうかと腕を組んで考えてみる。
12時過ぎっていう真夜中な時間帯らしいし、成人男性が八人も一緒だとしても私みたいな高校生はうろつかない方が良い、よね?
それに皆も帰って寝ないとだし、明るくなってからまた捜しに出た方が……と思った所で、ある事に気付く。

「……私、何処で夜を明かせば良いかな?」

今回はライオコット島の時みたく皆で寝泊まりしてるんじゃないから、それぞれの家に帰る訳で。
其処へお邪魔させてもらうのはなー……なので「今度こそ野宿かな」と小さく呟いたら聞こえてたようで、「駄目だ」って皆から言われてしまった。

「ならさ、ウチに来いよ。万里姉ちゃんなら大歓迎だし」
「本当? でもいきなり行ったら守のお母さん達に迷惑じゃ……」
「それなら問題無いぜ、俺と夏未だけで住んでるからな」
「夏未?」
「俺の奥さん」

…………今、奥さんって言いましたかこの人。

「ええぇぇっ!!?」
「声が大きいって万里さん」
「あっゴメ……って、マジすか」
「おう、マジだ。結婚してんだ、俺」

そ、そうだったのか……結婚してる、のかぁ。
結婚してる事が一目で分かる指輪は無くしたら困るからと着けてないだけで、家に大事に置いてあるらしい。
10年経って守達も24歳(と23歳と25歳)になったんだもんな、結婚しててもおかしくはないか。
守はこの中で唯一の既婚者だそうで、中学生の頃から数人に好意を寄せられていたんだとコッソリ一郎太が耳打ちで教えてくれた。
モテてたんだなぁ、守って。

「じゃあ万里姉ちゃんはウチに泊まるって事で、今日はこれで解散にするか?」
「そうだな、明日の昼過ぎにでも円堂の家に行くよ」
「分かった」

どうするかが決まって、私達はアーケードを抜けて広い通りに出た。
其処で私は守と、皆もそれぞれ帰る為に分かれて「またな」と歩き出そうとした、……んだけど。
修也がある一点を見たまま動かずにいた事に気付いて、代表として明王が声を掛けた。

「おい豪炎寺、帰らねぇのか?」
「いや、アレなんだが……」

そう言った修也は、自分が見ていた方向を指差して私達に示す。
……待てよ、つい最近もこんな流れが有ったような……?
そんな感覚を受けつつ、私達は修也が指し示している方向に目を向けてみた。
──其処には、


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▼ぴよ が あらわれた!


ぴよ、居ました。
……あぁうん、数時間前にも全く同じ事が有りましたね。

「ぴよだーっ!?」
「捜してないのに現れたな……」
「そういやあん時もそうだったぜ……って、そうだ捕まえねぇと!」

イキナリ現れたぴよ、しかもまた身に着けてるモノが変わってる緑リボンのぴよは条介がそう言った直後くるっと向きを変え、てててーっとそのまま駆け出してしまった。
赤バンダナの時みたく大人しくしてはくれないようなので、追い駆けねば……!

「待ってぴよ! ぴよーっ!!」

この呼び掛けも何回しただろうと思いながら、私はぴよを追って走り出す。
皆も帰るのを止めて追い駆けてくれるようで、私を含む九人の足音がバタバタと夜の稲妻町内に響いていった。



「あ、足速いな皆……」

先に走り出したハズなのに、塀吾郎を除く皆は私を追い抜いて行ってしまった。
流石プロサッカー選手達である……なのに、そんな彼等にも追い付けないぴよって一体何なのだろう本当に。
ぴよと先に行った皆を追っていたら、私は商店街から離れた所に有る高台までやって来ていた。
階段と坂道を上って行った先には大きな鉄塔が一本建っており、その周りには街灯の有る整備された広場が造られていて、先に着いてた皆は辺りを見回しながらぴよを捜しているようだ。
私の少し後に塀吾郎も到着して、一緒にぴよを捜す。

「何処行ったんだ? アイツ……」
「ったく、すばしっこい鳥だな」

手分けして周辺をくまなく捜しても、なかなかぴよを見付ける事が出来無かった。
植え込みの中に隠れたりしてないよね? としゃがんで覗き込んでみても、其処に黄色いモノはおらず。
一通り捜し終えた私達は一旦輪になるような形で集まって、何処にも居なかったというのを報告し合う。

「見付からなかったッス……」
「確かにこっちに来たハズなんだけどなー?」
「あと捜してない所は?」
「残るは其処の小屋ぐらいだが、鍵が錆付いていて開けられないから居ないと思うぞ」

私が一人で捜してた時と同じように見失ってしまったのだろうか。
折角向こうから現れてくれたのになぁ……これは日を改めて捜した方が良いのかもしれない。
今日は諦めよう、そう皆に言おうとして口を開きかけた時──ぽすんと、頭の上に何かが降って来た。

「あ」
「ん?」
「居た」
「えっ何処に!?」

聞くと、皆して私の頭上を指差した。
……もしや、今降って来たのって…………そーっと右手を上に伸ばしてみると、もっふり気持ち良い感触がして、正体が分かる。
え、どっから降って来たのコレ。
疑問に思いつつも確保しようとしたら、ぴよは私の手から離れ、私の頭だけじゃなく皆の頭の上を跳び回っていった。

「うわっ!?」
「おぉっ!?」
「っおい、何なんだよコイツ!?」

ぴょーんぴょぴょーんとぴよは何度も私達の頭の上を跳んで回り、皆捕まえようと手を伸ばすけど上手い具合に全部避けていって。
何がしたいんだこの子は!? 訳が分からないと思いながら何度も頭を踏まれていたら、急に守が輪から外れて距離を取り。

「ゴッドハンド!!」

腰を落とし右手を上に掲げながらそう言ったかと思うと、守の手から輝きを放っている大きな手のようなモノが現れた。

「なっ……えぇ!?」

その大きな手は、守が一度引きまた突き出したのと同じ動作で形を変えて。
パーの形をしたソレは、跳び続けていたぴよに向かってドーンとぶつかっていったのだ。
輝く手はぴよの動きを止めるとフッと消えて、気が付くと守の右手にはぴよがすっぽりと収まっていた。
……い、今のは、一体……?

「捕まえたぜ、万里姉ちゃん」

しっかりと両手でぴよを掴んだ守はこっちに戻って来て、驚きで言葉を失っていた私に笑いながらそう言った。

「あ、うん、ありがと……じゃなくて、今の何!?」
「あぁ、さっきのも必殺技の一つだよ。俺が最初に覚えたGK技なんだ」

必殺技って……皆がサッカーやる時に使ってたアレの事、だよね?
え、でもサッカー関係無い時でも出せるの? ぴよ丸いからボールみたいではあるけどさ。
聞けば、使おうと思えばボールが無くても使えちゃったりするようで……なんつーか、その気になれば必殺技でバトルなんかも出来ちゃうのではないだろうか、と思えてしまった。

「これで帰れるな」
「良かったね、万里さん」
「うん、手伝ってくれて有難う、皆」

皆にお礼を言って守からぴよを受け取ると、今度は大人しくしてくれるらしく、じっと私を見るだけだった。
守の必殺技で捕まって驚いたからというか、懲りたからなのかもしれない。

「……よし、それじゃそろそろ行こうかな。ゴメンね守、折角泊まれば良いって言ってくれたのに」
「気にすんなよ、家に帰れるならその方が良いって」
「今度こそ無事に帰れると良いな」
「こんだけ走らされて捜してやったんだから、やっぱ帰れませんでしたーなんて事にはなるなよ?」
「そうだね、無事に着く事を願うよ……」

だから頼むよ、ぴよさん。
そうぴよに言いながら両手でしっかりと抱え、二,三歩分の距離を開けてからまた皆に向き直る。

「守、修也、一郎太、有人、士郎、塀吾郎、条介、明王。遅くまで付き合ってくれて本当に有難う。10年後に来ちゃったのは予想外だったけど、こうしてまた皆と会えて楽しかった! 中学生の皆と過ごした時間も、此処で過ごした時間も……私、一生忘れないよ」

イキナリこっちの世界にやって来て不安だらけだった私に、皆は安心とあったかさを与えてくれた。
サッカーの違いや皆の繋がりを知って、触れる事が出来て……とても大切な、思い出が出来たよ。

「家に帰ったら、ゆっくり休んで下さい。……じゃあね、バイバイっ!」

中学生の皆と別れる時にもしたように、深くお辞儀をして。
顔を上げたら精一杯の笑顔を浮かべながら、別れの挨拶を言った。
元気でな、気を付けて帰れよ、と前にも言ってくれたのと同じ言葉に頷き返してから皆に背を向けて走り出し、私は鉄塔広場を後にした。
坂道を下り、タンタンと一段抜かしで階段も下りて行き、此処まで来た時と同じように商店街の方に向かって走って行く。
すると、アーケード入口前の道に、見覚えの有る大きな穴が開いているのが見えて来た。
さっきは無かった穴はぴよが居るから開いたのか、ぴよが開けてくれたのかは分からないけど、この穴の先も違う世界に繋がっているのだろう。
その先の世界が、自分の世界である事を信じたい。

「今度こそ、ちゃんと帰れますよーにっ!」

そして意を決した私は、ぎゅっと強くぴよを抱きしめて。
この世界で出会えた人達の事を思い浮かべながら、元気に楽しく過ごしてほしいと願いながら、穴に向かってダイブした──



夢のような時間に別れを告げて


大好きだよ、皆。